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徳島地方裁判所 平成6年(わ)11号 判決 1995年12月08日

本店所在地

徳島市住吉四丁目一二番二〇号

株式会社大協ハウス工業

右代表者代表取締役

山田カヨ子

本籍

徳島市住吉四丁目三一六番の五

住居

同市住吉五丁目六番六号

会社役員

山田孝

昭和二二年五月五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社大協ハウス工業を罰金一六〇〇万円に、被告人山田孝を懲役一年に、それぞれ処する。

被告人山田孝に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社大協ハウス工業(以下「被告人会社」という。)は、徳島市住吉四丁目一二番二〇号に本店を置いて不動産の売買並びに住宅の建設及び販売等を営業目的とする会社であり、被告人山田孝(以下「被告人山田」という。)は、被告人会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括掌理していたものであるが、被告人山田は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産取引に架空法人を介在させるなどして取得原価の水増しや売上除外を行うなどの方法により所得の一部を秘匿した上

第一  平成元年三月一日から同年二年二月二八日までの事業年度における被告人会社の所得金額は四七八七万五〇五一円であり、これに対する法人税額が二六八七万二一〇〇円であるにもかかわらず、平成二年五月一日、徳島市幸町三丁目五四番地所在の徳島税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の欠損金額が八万〇五四七円であり、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、右不正の行為により右正規の法人税額の全額である二六八七万二一〇〇円を免れた

第二  平成二年三月一日から同三年二月二八日までの事業年度における被告人会社の所得金額は三六四一万九五四四円であり、これに対する法人税額が一九〇七万九二〇〇円であるにもかかわらず、平成三年四月三〇日、前記徳島税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が三四〇万二四五三円であり、これに対する法人税額が九八万四七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、右不正の行為により右正規の法人税額と右申告税額との差額である一八〇九万四五〇〇円を免れた

第三  平成三年三月一日から同四年二月二九日までの事業年度における被告人会社の所得金額は三五七六万五八〇五円であり、これに対する法人税額が一六〇三万三一〇〇円であるにもかかわらず、平成四年四月三〇日、前記徳島税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の欠損金額が一一七二万二四四五円であり、納付すべき法人税額はない上、一万一四〇四円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、右不正の行為により右正規の法人税額の全額である一六〇三万三一〇〇円と右還付税額一万一四〇四円の合計額一六〇四万四五〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人会社代表者兼被告人(以下「被告人」という。)山田孝の当公判廷における供述

一  第一回、第二回、第四回ないし第六回公判調書中の被告人山田孝の各供述部分

一  被告人山田孝の徳島地方裁判所平成六年(わ)第一一号事件の第一三回公判廷における供述調書

一  被告人山田孝の検察官に対する供述調書(一〇八)

一  被告人山田孝の大蔵事務官に対する各質問てん末書(二二通・八四ないし九二、九四ないし一〇六)

一  第六回ないし第八回公判調書中の証人山田カヨ子の各供述部分

一  山田カヨ子の検察官に対する供述調書(四二・ただし、六項の冒頭三行を除く。)

一  山田カヨ子の大蔵事務官に対する各質問てん末書(六通・三六ないし四一・ただし、三九については、問三及び問四の部分を除く。)

一  大谷真理子(三通・四三ないし四五)、三好克彦(二通・四六、四七)、山村栄一(四八)、泉佳秀(四九)、中山珪子(五〇)、島田重信(五四)、福井貞敏(五五)、高宮笑美子(五六)、近藤由子(五七)、谷一勇良(五八)、大森亜記(五九)福永富應(六〇)、井関花子(六一)、野口孝(六二)、藤川幹夫(六三)、稼勢一俊(七〇)、豊永宗雄(七一)、片山敏則(七三)、岡田浩治(七四)、工藤晴信(七五)、斎藤誠彦(七六)、桂長生(七七)、大田隆史(七八)及び市原暹(八一)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  証人山根篤人の当公判廷における供述

一  検察官作成の捜査報告書(一四)

一  大蔵事務官作成の売上調査書(一六)、仲介手数料調査書(一七)、期首棚卸高調査書(一八)、期末棚卸高調査書(二三)、仕入調査書(一九)、材料費調査書(二〇)、外注費調査書(二一)、雑費調査書(二二)、給料手当調査書(二五)、福利厚生費調査書(二六)、支払手数料調査書(二七)、事業税調査書(二八)、租税公課調査書(二九)、受取利息調査書(三〇)、雑損失調査書(三二)、損金算入利子割額調査書(三三)、繰越欠損金調査書(三四)及びその他の所得(損益計算書科目)調査書(三五)

一  徳島地方法務局登記官作成の登記簿謄本(二)

一  徳島地方法務局所属公証人作成の被告人会社定款謄本の写し(三)

一  検察事務官作成の捜査報告書(一一)

一  国税査察官作成の査察官報告書(四通・五一ないし五三、六四)

判示第一、第二の事実について

一  被告人山田孝の大蔵事務官に対する質問てん末書(一〇七)

判示第一の事実について

一  第五回公判調書中の証人三好宏彦の供述部分

一  被告人山田孝の大蔵事務官に対する質問てん末書(九三)

一  押収してある確定申告書(平成六年押第二〇号の1)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(八)

一  国税査察官作成の査察官報告書(六九)

判示第二、第三の事実について

一  検察官作成の捜査報告書(一五)

一  島村泰昌の大蔵事務官に対する質問てん末書(六五)

判示第二の事実について

一  第五回公判調書中の証人廣瀬博士の供述部分

一  押収してある確定申告書(平成六年押第二〇号の2)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(九)

一  大蔵事務官作成の貸倒損失調査書(三一)

一  国税査察官作成の査察官報告書(二通・六七、一一二)

一  豊永宗雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(七二)

一  押収してある領収書二通(平成六年押第二〇号の4)

一  株式会社阿波銀行事務部作成の回答書(一二一)

判示第三の事実について

一  押収してある確定申告書(平成六年押第二〇号の3)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(一〇)

一  豊永ミサヲ(六八)、倉橋禎之(七九)及び今田幸裕(八〇)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の仕入調査書(一四二)及び脱税額計算書(一四三)

(補足説明)

弁護人は、(1)従業員豊永宗雄及び稼勢一俊の給与は公表どおり支給していたので平成元年度は四七二万九〇〇〇円、平成二年度及び平成三年度は各四八七万二〇〇〇円それぞれ当該年度の所得金額が多く計算されている、(2)平成元年から平成三年にかけての不動産取引においては、別紙圧縮額相違一覧表記載のとおり圧縮がなされているところ、これらはいずれも被告人会社の経費となるものであり、当該年度の所得から減額されるべきものである。(3)徳島八万町津浦の三戸分の建売住宅については、優良住宅の認定がなされているものであるから、右三戸分の課税土地譲渡利益金額は減額になる旨各主張し、被告人山田も右と同旨の供述をしている。

一  まず、右(1)の点について検討する。

1  経理を担当していた山田カヨ子及び被告人山田は、本件における国税当局の査察当初から検察官の捜査に至るまで一貫して右両名の給与の水増しの事実を認め、前記両名もその事実に沿った供述をしていたものであるが、山田カヨ子及び被告人山田並びに稼勢は公判においてこれを覆し、公表どおりの給与が支給されていた旨供述するに至った。しかし、右のように各供述を覆した理由についてはいずれも合理的な説明はなされていない。

2  前記従業員両名について、月ごとに支給額が高額なものと低額なものとの二種類の給料明細書が作成されているが、その差は約二倍から三倍になっており山田カヨ子や稼勢が公判において供述するように二種類の給料明細書が作成された理由が、右両名がそれぞれ自己の自由になる小遣い等を留保するため家族に見せる明細書の作成を要請したのでこれに応えて作成したに過ぎないとすると、いかにも右の差は大き過ぎ不自然というほかはない。

3  被告人らは、右両名の給与の水増しがあったことを認めた上、従業員の源泉徴収税を余分に支払ったとして、その還付を受けている。

4  右両名の給与は、なるほど被告人ら主張の金額が一応各人名義の銀行預金に振り込まれてはいる。そして、山田カヨ子の公判供述によれば、各人に対する給与の支給は、山田カヨ子が右預金を引き出して現金にして両名に交付する方法をとっていたというのであるが、そのような方法をとる必要性があるとは認められず、いかにも作為的である。

これらの点を総合すると、この点に関する弁護人の主張に副った前記の各公判供述は到底採用できない。

二  次に、前記(2)の点について検討する。

1  弁護人及び被告人山田の主張は、それぞれ前記一覧表の「内容」欄記載のとおりであるが、これらは、いずれも、本件公判においてはじめて主張されたもので、約一年にわたる捜査の過程では全く主張とれていなかったものである。そして、被告人山田は、捜査段階でこれを主張しなかったのは、「取引の相手に迷惑がかかるから」というのであるが、公判に至ってもそのことは何ら変わりがないのであるから右の理由は説得的でない。

2  右の各取引については、関係各当事者がその取引の内容等について具体的に、詳細に供述しており、また、被告人山田においても捜査段階では同様の供述をしているところ、被告人ら主張の前記「内容」欄記載の圧縮等についての的確な反証はなく、或いは取引の仲介手数料を三パーセントであるとしてこれを根拠にし、或いは被告人山田の記憶のみに基づく主張であったりすこぶる曖昧である。

この点についての主張もまた到底採用できない。

三  更に、前記(3)の点について検討する。

弁護人主張の特別税率の優遇措置を受けるためには、徳島県知事ないし徳島市長の認定を証する書類を「法人税法第一五一条第一項の規定する法人税確定申告書(同法第二条第三九号に規定する修正申告を除く。)に添付すること」とされており、いわゆる申告要件となっているものである。しかるに、被告人会社が右優良住宅の認定を受けたのは平成五年二月一二日であり、本件公訴事実における法人税確定申告の際には、右優良住宅の認定を受けていなかったことは被告人山田の公判供述によって明らかであるから、右優遇措置を受ける要件を欠いていることは明白である。

この点についての主張もまた採用できない。

(法令の適用)

被告人山田の判示各所為は、同被告人が被告人会社の代表取締役に在任中に被告人会社の業務に関してなされたものであるから、被告人会社に対しては法人税法一六四条一項により、判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が科せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同刑法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下で処断することとし、その金額の範囲内で被告人会社を罰金一六〇〇万円に処し、被告人山田の判示各所為は事業年度ごとにいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中各懲役刑を選択し、以上は同刑法四五条前段の併合罪であるから、同刑法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、なお、同被告人については諸般の情状にかんがみ同刑法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、不動産の売買並びに住宅の建設及び販売等を営業目的とする被告人会社を支配統括していた被告人山田が、同会社の業務に関し、三事業年度にわたり、合計一億一六〇〇万円余の所得を秘匿し、合計六一〇〇万円余の法人税を免れた事案であって、そのほ脱額は巨額であり、そのほ脱率も通算九〇パーセントを超える高率にのぼっていること、また、その態様も、架空の会社名で土地の仕入れをし、その仕入れ原価を水増ししたり、架空の会社名義のままで転売してその譲渡利益を抜いたりしたほか、架空の外注費や労務費の水増しを計上するなど計画的であって極めて悪質というほかない。

いうまでもなく、税は納税者がその所得に応じて等しく負担すべき義務であるところ、所得を偽り不正に税を免れる行為は誠実な納税者を被害者とする反社会的な犯罪ということができ、このような行為は大多数の善良な納税者の納税意欲を甚だしく阻害するものであって社会に及ぼす悪影響をも合わせ考えると被告人山田の刑事責任は重いといわざるを得ない。

しかしながら、本件の動機に関しては、被告人山田が、好不況の激しい業界にあって、好況時に利益を薄外処理して裏資金を蓄積し会社の体質強化を図ったものであって、専ら私利を図ったというものともいえないこと、ほ脱の結果については、修正申告の上本税はもとより重加算税等の付帯税を全て納付していること、被告人山田にはこれまで前科前歴はないことなど、被告人会社及び被告人山田にとって有利に斟酌すべき事情も認められるので、これらをも考慮した上、主文のとおり量刑した。

(検察官吉浦正明、弁護人中田祐児各公判出席)

(求刑 被告人会社につき罰金二〇〇〇万円、被告人山田につき懲役一年)

(裁判官 田中観一郎)

別紙圧縮額相違一覧表

<省略>

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